20201007_RAUディレクター・ゲストアーティスト座談会

2020年10月7日、横浜国立大学のキャンパスに「都市と芸術の応答体2020」(以下、RAU)ディレクターの藤原徹平、平倉圭と、ゲストアーティスト・三宅唱の3名が集結。6月以降、20回以上のレクチャーを繰り返しながら多彩な受講生たちとともに行ってきた集団制作を振り返りつつ、RAUがどのようなプログラムとして始まったか、そして新型コロナウイルス感染症の影響でオンラインのプログラムとなる中でどのような議論と思考が重ねられ、この先にどう繋がっていくものになったかを語り合った。
様々な意味で象徴的な年となった「2020」。この年にRAUという集団が応答していったもの、そしてこの先の時代に示し得るものは何か。

進行・構成:安東嵩史(TISSUE Inc.)、写真:佐藤駿

その1 応答し合う「土木と詩」の時間
その2 「土木と詩」というテーマはどこからきたのか
その3 集団的身体から紡ぎ出されてきた言葉

20210226-0227_『RAUフェス 2020-2021』アーカイブ

2021年2月26日、27日に開催した『RAUフェス 2020-2021』の記録映像を公開しております。
開催後に行われたM.E.A.R.Lによる三宅唱インタビューと合わせて是非ご覧ください。

「RAUフェス2020-2021」DAY1 ビューイング

「RAUフェス2020-2021」DAY2 (撮影WS振り返り+)映像編集ライヴパフォーマンス

映像編集ライヴパフォーマンスで三宅唱が編集した映像作品『崖』

202102011200_ビューイング・撮影ワークショップ・映像編集ライヴパフォーマンス『RAUフェス 2020-2021』開催のお知らせ

三宅唱(映画監督)柴崎友香(小説家)と惠谷浩子(研究者)を迎え、
2月26日(金)27日(土)に開催。
1年間の軌跡が記録された2冊組の特別副読本を予約先着順で200冊事前郵送。

◆概要 
2020年6月に始動した「都市と芸術の応答体 2020(以下、RAU2020)」は、複合的な課題が折り重なる都市で生まれる芸術を、実践から探求する横浜国立大学主催のオンラインプログラムです。国内外から集まった様々な分野、バックグラウンドを持つ44名43組が受講しています。今年度は映画監督の三宅唱氏をゲストアーティストに迎え、「土木と詩」というキーワードを立てるところからミーティングは始まり、それぞれの暮らしのなかに潜む「土木」を撮影、編集して映像作品を制作するWSを年間を通じ実施しました。一方的なレクチャーや伝達を行うのではなく、キーワードに対して自由に議論し、作品を作って応答するということを繰り返し行うことで、「集団的身体」とも呼ぶべき集団で共有される身体感覚や思考が育ちつつあります。
RAU2020が培ってきた「集団的身体」を、外に対して開きより多くの人と議論する機会として、「RAUフェス 2020-2021」と銘打ち、2日間にわたってオンラインイベントを開催します。
以下の4つのポイントを通じて、継続する思考を視聴者とゲストと共に考えるイベントです。

●RAU2020の体験
ビューイング:活動内で受講生が制作した映像作品や企画を題材に、ディレクター、ゲスト、受講生、視聴者でディスカッションを行う。
ワークショップ:RAU2020で実際に行われた映像撮影ワークショップを視聴者も参加可能な形式で実施。本イベントの指定時間中に各自素材撮影を行い、共有の編集素材として提出する。

●三宅唱(映画監督)による映像編集ライブパフォーマンス
ワークショップで集まった映像を材料に、
三宅唱監督がリアルタイムで映像編集をパフォーマンスとして公開。

●2冊組の特別副読本200冊を予約先着順で事前郵送
視聴者200名(予約先着順)には一年の活動と議論が、受講生やディレクター個々人の制作や思考からつづられた二冊組の冊子 『都市と芸術の応答体 WHERE WHY HOW WHEN WHO』(B5サイズ48p)、『都市と芸術の応答体 WHAT』(A4サイズ112p)を事前郵送します。
副読本デザインは鈴木哲生、編集は安東嵩史(TISSUE Inc.)が担当。

 

●ゲストに柴崎友香(小説家)と惠谷浩子(研究者)を招聘
年間のWSを通じてRAU2020の受講生が培った視点を、ビューイングで議論し、ワークショップとライブパフォーマンスを共に体験し、新たな議論に伴走。

手元に届く冊子とオンラインでの議論を通して、受講生、視聴者、ゲストたちで、様々な素材を介して相互に応答しあえるようなオンラインイベントを目指します。

◆詳細
タイトル

「RAUフェス 2020-2021」

配信スケジュール
令和3年2月26日(金)16:30開場 17:00開演 20:00終了
17:00-20:00【ビューイング】
令和3年2月27日(土)09:30開場 10:00開演 19:00修了
10:00-12:00【ワークショップ】
13:00-19:00【ライブパフォーマンス】

登壇者
RAUディレクター         藤原徹平 平倉圭
RAU2020年度ゲストアーティスト  三宅唱
ゲスト              惠谷浩子 柴崎友香

参加費
無料

参加申込
raufest2020-2021.peatix.com

申込締切
・特別副読本郵送+ZOOMウェビナー参加(先着200名) 2月12日(金)
・ZOOMウェビナーのみ参加 2月25日(木)

配信について
ZOOMウェビナーによる配信。Peatixで予約後に配布されるURLで入室して頂きます。

配信会場
BankART1929 BankART Temporary

配信
合同会社アロポジデ

202010071000_応答し合う「土木と詩」の時間 〜RAUディレクター・ゲストアーティスト座談会 その1

10月7日、横浜国立大学のキャンパスに「都市と芸術の応答体2020」(以下、RAU)ディレクターの藤原徹平、平倉圭と、ゲストアーティスト・三宅唱の3名が集結。6月以降、20回以上のレクチャーを繰り返しながら多彩な受講生たちとともに行ってきた集団制作を振り返りつつ、RAUがどのようなプログラムとして始まったか、そして新型コロナウイルス感染症の影響でオンラインのプログラムとなる中でどのような議論と思考が重ねられ、この先にどう繋がっていくものになったかを語り合った。
様々な意味で象徴的な年となった「2020」。この年にRAUという集団が応答していったもの、そしてこの先の時代に示し得るものは何か。

進行・構成:安東嵩史(TISSUE Inc.)、写真:佐藤駿

RAUの成り立ち

藤原徹平

藤原徹平:

最初に、RAUを始めたきっかけからお話ししましょうか。室井尚(*1)さんから文化庁に大学を基点としたアートマネジメントのプログラム応募があることを教えてもらったのですが、横浜国立大学では「都市イノベーション学府」や「都市科学部」のように、都市をテーマに学領域を融合させていこうという改革の流れがありました。これは、梅本洋一(*2)さんと北山恒(*3)さんを中心に進められた一大改革だったのですが、いつのまにか僕らの世代にバトンが渡ってきてしまった(笑)。

バトンを渡されて、誰となら対話できそうか学内で探っていく中で、平倉さんと出会って。一緒にプロジェクトをつくるような演習型講義の実験をするようになったんです。始めたのは3年くらい前でしたかね?

*1 美学者、記号学者。横浜国立大学名誉教授。

*2 映画批評家。元横浜国立大学教授。

*3 建築家。横浜国立大学名誉教授。

平倉圭:

そうですね。

藤原:

危口統之さん(*4)とか篠田千明(*5)さんに参加してもらって、非常にうまくいったから、もう少し大きな動きにしていきたいなと思っていたところだったんです。日本中で、地域芸術祭が開催されているけれど、都市政策や都市計画や土木とは関係があまり持てていない。もっと芸術の立場から、大きな都市創造の議論をすべきだなと思って、平倉さんとの企画会議でテーマを「都市政策と芸術」というふうに、仮に言ってみたんです。都市と芸術じゃなくて、都市政策と芸術。平倉さんは、その時点でどんな印象でしたか?

*4 演出家、劇作家、パフォーマー。横浜国立大学出身。

*5 演出家、劇作家、脚本家。

平倉圭

平倉:

私は美術が専門なんですが、美術館の中で作品を見るっていうことになんとなく違和感があって。自分が生きてることとうまく繋がってないという感じが前からするんです。かと言って、地方芸術祭でよくあるように、環境の中にポンとアート作品を置くという形にも違和感がある。「何もないほうが、ただこの土地を見るほうがずっと面白いんじゃないか」と思ったりします。

だから、RAUの構想を最初に聞いて、ある土地や都市のなかで「自分がどう生きているか」ということと不可分なところから生まれてくる芸術について考えを深められるんじゃないかと思いました。最初あまりアイディアはなかったんですが、そういうことをやってみたいなと。

それで、ゲストアーティストに来てもらいたいという話になって。三宅さんの名前が2人の間で挙がったんです。

藤原:

ちょうど2019年の12月にも、一度授業に来ていただきましたよね。

三宅唱

三宅唱:

そうですね。

藤原:

そこで三宅さんにレクチャーをしてもらって、『無言日記』や『THE COCKPIT』(2014)の話がものすごく面白かった。『無言日記』の積み重ねから『THE COCKPIT』の最後のシーンができたっていう話も、興味があった。僕の中では、「都市政策」という言葉が持ってる射程のなかに『THE COCKPIT』みたいなものが含まれているような気がしてるんです。『THE COCKPIT』は団地の一部屋でおきる出来事の映画なのだけど、その団地は都市政策がつくった。昔、フランス映画で『憎しみ』(1995)(*6)っていう映画があったんだけど……

*6 マチュー・カソヴィッツ監督。移民や低所得者が住むパリ郊外の公営団地において展開される一夜のドラマを手がかりに、フランスにおける差別の風景を三人の移民青年の視点から描いた。

三宅:

はい、知ってます。

藤原:

公営団地を作った都市政策の結果、地域で生まれるリアクションとしての「憎しみ」。作品自体はそんな社会への怒りを描いてるんだけど、そのリアクションも含めて都市政策なんじゃないかなと、僕は思っています。今、日本で都市政策と言うと、何か施策がうまくいったかいかないかってことばっかりが取り沙汰されがちだけど、人間が何かを作ろうとして人為的に環境を改変して、結果としてそれに対する暮らしとか文化とかリアクションが生まれてくるところまでが、都市政策の射程なのかなと。

だから、芸術というものが生きていく上で重要なことだと考えるならば、都市政策と芸術が応答し合う必要がある。日本では都市をテーマにした美術・芸術が扱う範囲が、現象とか表層的な部分に留まるという印象があったので、都市政策という、僕たち自身が無意識のうちに参画してしまっている開発行為に対して、芸術学の立場から意識的にアプローチするのは重要なことかなと。それを三宅さんと議論するのは、なんか面白いんじゃないかなと思ってしまったんです。

三宅:

正直な話、都市や土木、詩という言葉を使ってなにか考えることをこれまでしてこなかったので、RAUの今回のテーマは「遠い?」というのが出発点でした。

ただ、映画は都市や芸術の一部でもあるので、無関係なわけはない。また僕自身、いろんな事柄に出入りできるから映画をやってるというところもありますし、他のジャンルの方たちと話したりすることはこれまでも刺激になってきました。専門的には考えられませんが、映画なりの角度からちょっとでもその核心に触れられたらいいなと思って参加しました。

藤原:

まあ、三宅さんだけじゃなくて僕や平倉さんも本当に手探りでやってますから。その手探り感もいいなと思ってるんですけど。そういえば、RAUを始めたときに、ちょうど今年から平倉さんと僕の二人でやっている大学院の座学『都市と芸術』が並行していました。

平倉:

ああ、そうですね。

藤原:

水曜日の夜にRAUをやってるんですけど、木曜日の午前中に『都市と芸術』があるから2日連続で話す。だから、途中で大学で話したか、RAUで話したか、わからなくなったりもしたんですが、あるとき、「大学って、こういうことのためにあるのかも」と思えてきたんです。

授業というのは決まったカリキュラムに基づいて教えるものですが、その前日にRAUの議論の場でいろいろなインプットが起きるから、それについて考えた影響が、翌日の授業にも生じる。ただでさえ対話型の座学という形式で応答的なのに、前日に入ってきた急な思考に対してもリアクションしていく形になるし、さらにRAUの受講生が授業を聴講しに来てるから、よけい熱が冷めやらぬ状態で授業が始まる。そうなるとこっちも「授業だから」って決まりきったことを教えるわけにはいかないな……という緊張感があって、とてもよかったです。「土木」とか「詩」を途中で、明確に定義していったりしたのも、横で授業が動いていたからかもしれないなと思います。

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